
逮捕され後、留置場で拘束されている時に行われる「勾留質問」。
逮捕された家族や知人の身に何が起きているのか、自分が逮捕されたらどうなるのか、不安を抱えている方も多いでしょう。
この記事では、留置場における勾留質問の目的や流れ、実態について詳しく解説していきます。
勾留質問とは?
勾留質問の目的
- 勾留の判断:裁判官が被疑者の話を聞き、勾留するかどうかを決定します。
- 手続きの位置づけ:刑事訴訟法に基づく手続きで、検察官の勾留請求を許可するかどうかを判断します。
刑事訴訟法では以下のように定められています。
第六十条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
出典:e-GOV 法令検索 刑事訴訟法第六十条より引用
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
勾留質問の流れ
- 勾留請求書の提出:
- 検察官が裁判所に調書などの捜査資料を提出します。
- 記録の検討:裁判官が勾留請求書と捜査資料を検討します。
- 実務的にはこの時点で勾留するか決めていることが多いです。
- 接見禁止がつく場合は、この時点で書類の用意をしていることが多いようです。
- 勾留質問室での質問:
- 裁判所内の同行室から、警察官付き添いの元、勾留質問室に入室します。
- 着席後、手錠を外してくれます。外した手錠は、腰縄と椅子に嵌められ、逃亡を防いでいます。
- 付き添いの警察官は勾留質問中は勾留質問室の外で待機しています。
- 裁判官が被疑者に直接質問を行います
- 黙秘権の告知
- 弁護人選任権の告知
- 勾留決定の可否
- 勾留決定の場合は、勾留状が発行され、10日間の勾留が決定します。
- 勾留が却下された場合は、勾留請求書に勾留請求却下の印が押され、捜査資料とともに検察官に戻されます。
勾留質問当日のスケジュール例(東京の場合)
- 7:00〜8:00 留置場から護送バスに乗車します。逃亡を防ぐために警察官同行します。
- 9:00〜9:30頃 地方検察庁(地検)に到着します。
- 9:30〜10:30頃 地検の同行室で一度待機します。その後、改めて護送バスで裁判所に行きます。
- 10:30〜16:00過ぎ 裁判所の待合室(同行室)で待機します。この時間の間に勾留質問が行われます。
- 16:00〜18:00頃 勾留質問と勾留状の発行が済み次第、地検に護送バスで戻ります。
- 17:00〜19:30頃 留置場に向けて護送バスが出発します。
- 18:00〜 留置場に到着します。勾留却下の場合はすぐに釈放になります。
勾留質問で何が聞かれるの?
勾留質問の際に裁判官が被疑者にどのような質問をするのか?
勾留質問の際に裁判官が被疑者にどのような質問をするかについて、詳しく説明していきます。
質問内容
- 身元確認:
- 氏名、住所、職業などを確認します。
- 被疑事実の確認:
- 裁判官は、逮捕にかかる被疑事実を読み上げます。これにより、被疑者が逮捕された理由を確認します。
- 黙秘権の告知:
- 裁判官は、被疑者に対して黙秘権を説明します。
- つまり、被疑者は質問に対して「自分に不利になる場合や答えたくない場合は、答えなくていい」権利を有することを知らせます。
- 弁護人選任権の説明:
- 弁護人選任権や国選弁護人制度についても説明されます。
- 言い分の聴取:
- 容疑事実を認めるか認めないか、または黙秘するかを確認します。
- 裁判官は、被疑者に対して「この事実について、言いたいことはありますか?」と尋ねます。
- これにより、被疑者が事件に対する意見や弁解を述べる機会が与えられます。
裁判官の質問の目的
勾留質問は、被疑者の勾留の必要性を判断するために行われます。裁判官は、被疑者の発言をもとに、勾留を続けるかどうかを決定します。この質問は、被疑者に不利益を与える勾留を行う前に、直接話を聞く手続きとして重要です。
勾留質問調書
勾留質問で得られた情報は「勾留質問調書」として作成されます。この調書は、裁判で証拠として提出されることがあります。いかに「勾留質問調書」について詳しく記載します。
- 調書の作成:
- 質問の内容が書面化され、署名・指印が求められます。
- 署名・指印したものは通常、その信用性や証拠能力を争うことはできません。
- 証拠としての扱い:
- 勾留質問調書の内容は、通常、証拠能力が認められます。
- つまり、被疑者の発言がその後の裁判で重要な証拠となる可能性があります。
- 注意点:
- 勾留質問の場では、弁護士が同席することはできませんが、事前に弁護士と相談することで、適切な対応が可能です。
- 特に、黙秘や否認する場合は、事前に弁護士との相談の必要があります。
勾留質問が行われる場所
場所と環境
- 裁判所内:通常は裁判所内の特定の部屋(勾留質問室)で行われます。
- 東京地方裁判所(東京地裁)では、4つの勾留質問室が並んでいて、一部屋毎に裁判官と書記官がいます。
- コロナ以降、透明なシートが被疑者と裁判官との間に貼られています。
- 東京地方裁判所(東京地裁)では、4つの勾留質問室が並んでいて、一部屋毎に裁判官と書記官がいます。
- 非公開:弁護士の同席はできず、非公開で行われます。
勾留質問と関係機関(警察・検察・裁判所)
勾留質問と警察の関係
- 警察は逮捕した被疑者を留置場で管理
- 勾留質問の際は留置場から裁判所まで護送されます。その際は必ず警察官が同行します。
- 警察官は質問室へは入室せず、外で待機します。
- 勾留決定後も留置場での管理を継続します。
勾留質問と検察の関係
- 検察官が勾留請求を裁判所に提出します。
- 勾留質問自体には検察官は同席しません。
- 検察官は勾留請求書で勾留の必要性を裁判官に対して主張します。
勾留質問と裁判所の関係
- 裁判官が勾留質問を実施します。
- 裁判所書記官が勾留質問の内容を記録します。
- 裁判官が勾留の要件(逃亡・証拠隠滅の恐れ)を判断します。
- 勾留決定または却下の判断を下します。
- 必要に応じて接見禁止が言い渡されます。
勾留質問で勾留が決まったら?
勾留決定後の流れ
- 勾留決定:
- 最大10日間の勾留(+最大10日間の延長可能)となります。
- 留置場へ戻る:
- 引き続き留置場で生活することになります。
- 取調べ継続:
- 警察・検察による捜査が継続されます。
- 起訴または不起訴:
- 検察官が起訴の判断をします。
勾留質問と留置場の関係
勾留の決定
- 勾留決定後:勾留が決定されると、被疑者は留置場(ごく稀に拘置所)で身柄を拘束されます。
- 留置場での生活:留置場での生活については、食事や面会のルールなどが厳しく規定されています。
留置場ではどのような生活を送っているのでしょうか?どんな立場の人でもその実情はとても気になるものだと思います。本記事では留置場での1日の生活について、留置場経験者からのインタビューも参考に、なるべくリアルな実情をお伝えしていきます。
勾留質問が形骸化しているという批判
批判の内容
- 形式的な手続き:
- 案件が多く、実質的には事務的な流れ作業となっています。
- 勾留質問が始まると、裁判官は絶え間なく勾留質問を続けていきます。そのため、勾留質問に係る時間は5〜10分程度しかありません。
- そのことから、十分な検討時間が無いため、正確で慎重な判断は難しいことが分かります。
- 以上のような利用により、勾留質問が形式的な手続きに過ぎない(形骸化している)と批判されています。
- 弁護士の役割:弁護士が事前に意見書を提出することで、勾留を阻止できる可能性があります。
形骸化の実態
勾留質問は本来、被疑者の人権保護のための重要な手続きですが、実際には以下のような問題が指摘されています:
- 勾留請求の高い認容率(約96〜99%)
- 『
勾留請求された事件のうち,裁判官によって勾留が認容された事件の比率(認容率)は,この35年間,96%以上を維持し,平成3年以降は,いずれの年次においても99.9%となっている。
』 2023年、逮捕された被疑者のうち、検察官の請求を受けて裁判官が勾留状を発した人員は8万9424人(96.2%)であるのに対し、裁判官が勾留請求を却下した人員は3548人(3.8%)だった(自動車による過失致死傷等及び道路交通法等違反被疑事件を除く。)
- 『
- 多くの案件を裁判官一人が持っていて、絶え間なく勾留質問を続けるため、実質的には短時間での形式的に(多くの場合5~15分程度で)勾留質問を終わらせています。そのため、十分かつ慎重な判断はできない状況にあります。
- 弁護人の実質的関与の限界。
- 勾留質問に立ち会えない
- 準抗告など、勾留に対して行える手段に限りがある。
- 被疑者の主張が十分に考慮されないケースもあると言われています。
形骸化の背景
- 捜査機関の主張が重視される傾向
- 裁判官の多忙さと案件の多さ
- 「疑わしきは罰せず」の原則が十分に機能していない可能性
- 日本の代用監獄制度の構造的問題
日本の刑事司法制度において、「代用監獄」として機能する留置場は長年にわたり議論の的となっています。その背景には、日本の司法制度が抱える特有の問題が潜んでいます。この記事では、「留置場」「代用監獄」という問題に着目し、その意味、問題点、海外との比較などを解説しつつ、日本の司法制度が抱える課題について考察していきます。
勾留質問に備える方法
被疑者本人の場合
- 弁護士に相談する
- 早期の弁護士依頼が重要
- 当番弁護士制度の活用
- 質問時の対応
- 嘘をつかない(虚偽の供述は不利に働く)
- 住所や仕事の安定性をアピール
- 証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを説明
- 心構え
- 短時間の質問であることを理解しておく
- 感情的にならず冷静に対応する
家族の場合
- 弁護士への協力
- 弁護士に対して、被疑者の生活環境情報の提供しましょう。
- 勾留されないために必要な資料を請求されたらすぐに提供しましょう。
- 環境整備
- 帰住先の確保と証明が大切です。
- 社会的つながりの証明が必要になることがあります。
突然あなたの大切な家族が留置場に入ったと知らされた時、驚きと戸惑い、そして不安が一気に押し寄せてくることでしょう。 しかしながら、そう言う時ほどパニックにならず、適切な行動を取ることが大切です。 本記事では、家族が留置場に入った場合の対応方法について分かりやすく解説します。
勾留質問の結果、勾留が決定された場合、覆す方法はあるの?
勾留質問の結果、勾留が決定された場合、その決定を覆す方法としては、以下のような手段があります。
- 準抗告
- 手続き:勾留決定に対して、検察官や被疑者側(弁護士を通じて行います)が準抗告を申し立てることができます。
- 効果:準抗告が認められれば、勾留決定が覆される可能性があります。
- 勾留取消請求
- 手続き:勾留の理由や必要性がなくなった場合、裁判所に対して勾留取消請求を行うことができます。
- 効果:勾留取消請求が認められれば、勾留が取り消されます。
- 被害者との示談
- 効果:被害者との示談が成立すれば、不起訴処分や勾留取り消しの可能性が高まります。暴行や傷害罪、痴漢などであれば、即日釈放になるケースが多いです。
- 弁護士による交渉
- 手段:弁護士が裁判所や検察官と交渉を行い、勾留を取り消すよう働きかけることがあります。
これらの方法は、事件の状況や証拠の有無によって効果が異なるため、専門的な弁護士のアドバイスが重要です。
よくある質問
Q1: 勾留質問は誰がやるの?
A1: 裁判官が行います。検察官や警察官ではなく、中立的立場の裁判官が質問します。
Q2: 勾留質問の時間はどのくらい?
A2: 多くの場合5~15分程度です。ケースによっては30分近くかかることもありますが、短時間で終わるケースが多いです。
Q3: 勾留質問で何を言えば勾留されない?
A3: 単純な「言い方」で勾留を避けることは難しいですが、住所や仕事が安定していること、証拠隠滅や逃亡の恐れがないことを具体的に説明することが重要です。
あとは弁護士から意見書を出してもらう方法があります。検察から勾留請求が出され、裁判官が決定したタイミングで、弁護士による意見書を出してもらいます。
勾留判断に一定の影響を及ぼす期待がありますが、勾留質問を行う裁判官決定前に書類提出ができないため、タイミングの難しさが課題です。
Q4: 勾留質問に弁護士は同席できる?
A4: 残念ながら同席できません。
Q5: 勾留質問の結果はいつわかる?
A5: 同日中に結果が出ます。質問後、裁判所で待機している間に結果が通知されます。
Q6: 勾留質問で嘘をついたらどうなる?
A6: 嘘が発覚すると、かえって信用を失い、勾留される可能性が高まります。嘘をつくくらいであれば黙秘してください。基本的には正直に答えることが大切です。
今後の取り調べや起訴、起訴後の裁判への方向性にも関わりますので、必ず弁護士と相談してから勾留質問に望むようにしましょう。
Q7: 勾留質問の前に弁護士と打ち合わせできる?
A7: 選任した弁護士や当番弁護士などと、勾留質問前に打ち合わせすることが可能です。
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Q8: 勾留質問で勾留が決まったら、絶対に留置場に戻る?
A8: 基本的には留置場に戻ります。
まとめ:勾留質問を乗り越えるために
勾留質問は、逮捕後の重要な分岐点です。形式的な面があるとしても、以下のポイントを押さえることで、より良い結果を目指せます:
- 弁護士の早期介入:専門家の支援を得ることが最も効果的です
- 冷静な対応:感情的にならず、事実に基づいて説明することが大切です。場合によっては黙秘しましょう。
- 社会的安定性のアピール:住居や職業の安定性を示すことが大切です。
- 証拠隠滅・逃亡の恐れがないことの説明:具体的な生活状況や、証拠隠滅の恐れがないことを伝えるといいでしょう。
留置場や勾留に関する不安は誰しもあるものです。適切な知識と準備で、この厳しい状況を乗り越えていきましょう。
家族が留置場にいる方、自分が逮捕される可能性を心配している方、単に司法制度に興味がある方、それぞれの立場で参考になる情報をお届けしました。少しでも不安が解消され、適切な対応ができるよう願っています。
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