愛知・岡崎署留置場(留置所)死亡事件 遺族が1億円請求|暴行と医療放置の実態

2022年12月、愛知県警岡崎署の留置場で発生した勾留中の男性死亡事件は、日本の刑事司法制度の闇を浮き彫りにしました。

この記事では、監視カメラに記録された暴行実態や医療放置の問題点、最新の裁判動向を徹底解説します。

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事件の核心:144時間の異常拘束

事件の概要

  • 被疑者
    • 43歳男性
  • 持病
    • 統合失調症(精神障害者2級)
    • 糖尿病
  • 逮捕の容疑:公務執行妨害
  • 勾留期間:2022年11月25日逮捕~12月4日死亡(10日間)
  • 死因:急性腎不全(重度脱水症)

遺族による損害賠償請求訴訟

この事件を受けて、2024年10月、亡くなった男性の遺族は愛知県に対して8100万円の損害賠償を求める訴訟を名古屋地方裁判所に提起しました。訴状では、刑が確定している幹部警察官(警務課長代理:留置主任官)の調書を元に、以下の点が主に主張されています:

  1. 警察官による過剰な身体拘束が死亡の直接原因である
  2. 精神疾患を持つ被留置者に対する適切な医療的ケアが欠如していた
    • 父親からの入院や投薬の要請を無視した
    • 警察医が入院を進言していたことも無視した
    • 同僚による栄養剤投与のしんげんも
  3. 拘束中の定期的な状態確認が不十分だった
  4. 警察組織内の監督体制に問題があった

会見で「岡崎署の留置管理業務が、組織的に機能していなかった」
と釈明した愛知県警。
今回の事件を受け、医療が必要とする容疑者への対応を徹底するなど、再発防止に努めたいとしています。
(出典: 東海テレビ『警察署で勾留中の男性が死亡…署の幹部らを業務上過失致死等で書類送検 遺族は報告受けるも「納得できない」』

また、訴えられた愛知県は「法的責任について争うことは考えていない」として和解を目指す方針です。

被疑者(被留置者)への暴行の実態

精神疾患と留置場での処遇

この事件は、精神疾患を持つ被留置者の処遇について重要な問題を提起しています。

留置場は基本的に医療施設ではなく、専門的な精神医療を提供できる体制が整っていません。

現行制度では、精神疾患を持つ被疑者・被告人が逮捕された場合でも、多くは一般の留置場に収容されます。

必要に応じて外部医療機関への通院や投薬が行われますが、24時間体制の医療的観察は行われていないのが実情です。

被疑者が患っていた統合失調症とは?

  1. 統合失調症とは
    • 幻想や妄想などが生じ、日常生活や人間関係に大きな影響を与えてしまうものです。
  2. 精神障害者2級とは? どれくらいの症状だったの?

精神疾患者の拘束に関する問題点

精神疾患を持つ被留置者の拘束については、以下のような問題点が指摘されています:

  1. 拘束の必要性判断: 精神疾患による行動と、実際の危険行動の区別が難しい
  2. 拘束方法の適切性: 身体的拘束が精神症状を悪化させる可能性がある
  3. 医療的観点の欠如: 拘束判断に医療専門家が関与していないケースが多い
  4. 長時間拘束のリスク: 身体拘束が長時間に及ぶと、身体的・精神的健康に深刻な影響を与える

同様の事例と留置場の問題点

岡崎警察署の事件は、日本全国で報告されている留置場での死亡事故の一例に過ぎません。

過去には以下のような事例も報告されています:

  • 2017年:東京の新宿警察署の留置場で、ネパール人の被留置者が拘束中に肺動脈血栓症にて死亡
  • 2022年:大阪府内の留置施設で、体調不良を訴えていた拘束具使用中の被留置者が死亡
  • 2022年:沖縄県浦添警察署の留置場で、拘束された50代男性が意識不明になり死亡

これらの事例からは、留置場における以下のような構造的問題が浮かび上がってきます:

  1. 代用監獄としての問題: 日本の留置場は「代用監獄」として機能しており、捜査と拘禁の場が同一であることへの批判があります
  2. 医療体制の不足: 24時間対応の医療スタッフがいないという問題があります。
  3. 専門知識の欠如: 精神疾患への対応に関する警察官の専門知識が不足しています
  4. 透明性の欠如: 留置場内での処遇に関する第三者からの監視体制が不十分なことが挙げられます。

愛知・岡崎署留置場(留置所)死亡事件取り調べから見える警察組織の体質

問題の構造

問題領域具体的内容
拘束管理法定上限(72時間)を大幅超過して拘束され続けた
医療対応医師の入院勧告を無視・糖尿病薬の未投与
組織風土「ストレス発散」
「上司の指示がなかったから外せなかった」
などの発言に象徴される職員教育

2025年2月の法廷で明らかになった事実

  • 留置主任官(警務課長代理)が部下に「縛ることもストレス発散と思ってやって」と指示しています。
  • 衰弱していく男性を心配した部下からの栄養剤投与の提案を「高価だから」と拒否しています。
  • 死亡4日前に警察医が緊急入院を意見していたが無視された事実があります。

司法の対応と課題

処分の実態

  • 元警務課長代理留置主任官・警部)
    • 2023年12月1日愛知県警は、元警務課長代理(留置主任官・警部)を含む9名業務上過失致死容疑また特別公務員暴行陵虐疑いで逮捕しました
    • その結果、2024年2月28日業務上過失致死で略式起訴。起訴を受け、名古屋簡易裁判所は翌日の2月29日に罰金80万円の略式命令を出しました。
      • 人ひとりの命が失われたのに、この判決は異常に軽いものと言えるのではないでしょうか。
  • 8名不起訴:2024年2月28日に不起訴になりました。
    • 元警務課長代理(留置主任官・警部)以外の警察官は不起訴と…。さすがに不当に軽いものだと言えるのではないでしょうか。
  • 署長処分:減給3ヶ月(監督責任)

遺族の主張

  • 遺族は「適切な医療処置を受けていれば命を落とすことはなかった」として、愛知県に対し損害賠償を請求しています。
  • 1億100万円の損害賠償請求(2025年2月時点)です。
    • 元は8100万の損害賠償請求でした。事件の悲惨な真相が明らかになるにつれ、遺族が請求額を1億100万円に増額しました。
  • 「戒具の違法な使用」「元警務課長代理(留置主任官・警部)らによる虐待」「必要な医療を受けさせなかった」「遺族からの入院・治療の要求を無視した」などが男性の死につながったとしています。
  • 愛知県側は、「法的責任について争うことは考えていない」として和解を目指す方針とのことです。

専門家が指摘する制度的問題

代用監獄制度の弊害

  • 被疑者の98.3%が警察の留置場(留置所)に収容(2006年時点)されています
    (参考:法務省「未決拘禁者の処遇等 に関する法整備」p18の掲載図より
  • 日本弁護士連合会は代用監獄について以下のように述べています。
  • 自白強要や冤罪の温床になり得るという問題があります。
  • 留置場(留置所)が代用監獄として継続している背景には、警察署内にあることで、捜査に際して利点が多い(都合が良い)という捜査側の事情があります。
  • また、本来勾留されるべき拘置所の数が少ないことも原因の一つです。
  • 本来であれば、被疑者の段階では「無罪推定(推定無罪)の原則」がありますが、長期の勾留かつマスコミ報道に晒される現状は「推定有罪」の状況になっているとも言えます。

国際的な批判

  • 日本の代用監獄に対しては、既に10数年前からアムネスティ・インターナショナル、国際法曹協会(IBA)など多くの国際人権団体・NGOが批判の声を上げてきました。国際人権(自由権)規約委員会も、代用監獄を同規約に適合するようにすることを日本政府に繰り返し求めています。
    (出典:日本弁護士連合会「国際人権基準に適った未決拘禁制度改革と代用監獄の廃止に向けて」
  • 国連拷問禁止委員会や国連人権理事会作業部会などが日本の人権や代用監獄の廃止、取り調べ等の是正を勧告をしています。
  • 欧米諸国との比較(出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』代用刑事施設より):
国名警察が被疑者を拘束できる期間の上限
日本20日(内乱罪のみ25日)
カナダ1日
フィリピン1.5日
アメリカ合衆国2日
ドイツ2日
ニュージーランド2日
ウクライナ3日
デンマーク3日
ロシア5日
フランス6日
トルコ7.5日
オーストラリア12日
イギリス4日(テロ事件のみ28日)

日本の捜査機関による勾留がいかに長いかが、資料を通じてもわかりますね。

留置場での死亡事故を防ぐために

このような悲劇を防ぐために、以下のような改善策が専門家から提言されています:

  1. 医療体制の強化: 留置場に精神科医や看護師の常駐、もしくは定期的な訪問診療の実施
  2. 警察官への専門教育: 精神疾患に関する基礎知識と適切な対応方法の教育
  3. 拘束基準の明確化: 拘束が必要な状況と適切な方法についての明確なガイドラインの策定
  4. 第三者による監視: 留置場の運営に関する第三者委員会の設置や定期的な査察の実施
  5. 代替措置の検討: 精神疾患がある被疑者・被告人に対する病院への移送など、拘禁に代わる措置の積極的活用

読者が取るべき行動

家族ができること

もし家族や知人が留置場に勾留され、精神疾患などの健康上の問題がある場合、以下のような対応が考えられます:

  1. 弁護士への相談: まず弁護士に相談し、適切な法的支援を受ける
  2. 医療情報の提供: 持病や服用中の薬について警察に正確に伝える
  3. 面会の実施: 定期的な面会を通じて本人の状態を確認する
  4. 医療的配慮の要請: 必要に応じて、医師の診察や投薬などを要請する

社会全体で考える

まとめ

遺族のメッセージ

「私の息子は警察に動物以下の扱いを受けて殺されたと思っています。両手両足を縛られ、水も飲ませてもらえないまま、息子は亡くなりました。大勢の警察官が関わって、皆で息子を虐待していても、1人の警察官に罰金80万円の略式命令が出ただけで終わりでした。息子の無念な気持ちを思わない日はありません。警察の留置施設で何が起きているのかを、しっかり監視できる仕組みを作ってほしいと願っています」

出典:愛知のニュース『「息子は警察に動物以下の扱いを受けて殺された」愛知・岡崎署の留置場で死亡した男性の父親が県を提訴』より

愛知県岡崎警察署での留置死事件は、日本の留置場における精神疾患を持つ被留置者の処遇に関する重大な問題を浮き彫りにしました。この損害賠償請求訴訟の行方は、今後の留置場運営にも大きな影響を与える可能性があります。

留置場は、未決の被疑者・被告人が収容される場所であり、有罪が確定しているわけではありません。そのため、人権に最大限の配慮がなされるべき場所です。特に精神疾患など特別なケアが必要な人々に対しては、より慎重な対応が求められます。

最終的には、警察組織の意識改革と制度の見直し、そして社会全体の理解と監視が、このような悲劇を防ぐ鍵となるでしょう。

この記事があなたの疑問解決の一助となれば幸いです。留置場に関する他の疑問については、サイト内の関連記事もぜひご覧ください。

※この記事は2025年2月現在の情報に基づいて作成されています。最新の情報については、関係機関にお問い合わせください。

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